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仙台高等裁判所 昭和31年(ネ)274号 判決 1958年5月02日

郡山市細沼町四〇番地

控訴人

大森達夫

右訴訟代理人弁護士

稲塚隈東

右訴訟復代理人弁護士

桑名邦雄

同市壇場町二二番地の三

被控訴人

郡山税務署長 山根軍治

右指定代理人大蔵事務官

鈴木貞冏

畑中武雄

成田謙哉

被控訴人

右代表者法務大臣

唐沢俊樹

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 三浦鉄夫

右当事者間の財産税価格更正決定取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。(一)被控訴人郡山税務署長が控訴人に対し昭和二十三年六月十六日にした財産税課税価格更正決定(課税価格三、〇四六、二七九円)及び昭和二十六年六月十四日にした財産税課税価格更正決定(課税価格三、〇四六、二七九円)を取り消す。(二)被控訴人国は控訴人に対し金三、五三八、五七二円九〇銭及びこれに対する昭和二十三年十二月十七日以降同二十五年三月三十一日まで日歩一〇銭の割合による金員、同年四月一日以降、完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決並びに請求の趣旨第二項につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人等各代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は控訴代理人において

一、従前の原判決事実摘示(12)の主張事実を撤回し、同(16)の主張事実を「第二回更正決定に対する審査請求に対しては裁決(決定)は未だ受けていない。また第三回更正決定に対する審査請求に対しては審査決定がない。たとえなんらかの決定があつたとしても公告がなされていないし、また同決定には理由が全然附記されていないから無効のものであり、云々」と訂正主張する。

二、従前主張の国庫に対する控訴人の財産税等金三、五三八、五七二円九〇銭の納入は、その後従前主張のとおり控訴人に対する財産税法違反被告事件が第一審で無罪となり、ついで控訴審において免訴と確定したことによつて控訴人が右財産税調査時期である昭和二十一年三月三日当時において右税額に対応する財産を有しておらなかつたことが判明し、過誤納であることが明らかになつたから、控訴人は国税徴収法施行規則第三一条の五によつて右財産税等の還付を請求し得るものである。

三、原判決添附別表第五記載中(5)に「六五、五四〇円」とあるのは「六五、四四〇円」の、合計「二、〇〇二、六一〇円」とあるのは「二、〇〇二、六〇一円」のそれぞれ誤記であるから、そのように訂正する。

と述べ、被控訴人等各代理人において控訴人主張の右一、二の事実中被控訴人従前の主張に反する部分は否認する。同二の訂正には異議がない。」と述べ、

証拠として控訴代理人において当審証人大室三郎、今井貞良、花井百亀、村岡武雄、大森五郎の各証言並びに当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人等各代理人は当審証人大室三郎、今井貞良の各証言を援用したほか、原判決の事実摘示と同じであるのでこれを引用する。

理由

当裁判所も新たに次の一ないし四の判断を附け加えるほか、原判決と同様の理由によつて控訴人の被控訴人税務署長に対する訴は却下すべきものであり、被控訴人国に対する請求は棄却すべきものと判断するので、原判決の理由記載をここに引用する。

一、第二回更正決定の取消の請求に関して。

当審証人今井貞良の証言によると控訴人がその代理人桑名邦雄を介して納入した前示税額延滞金等合計三、五三八、五七二円九〇銭は控訴人の友人今井貞良が控訴人の妻春江から当時勾留中の控訴人の釈放に関連して右納入方について相談を受け、日東紡績株式会社より立替支払うようその工面をしてやつたものであるところ、控訴人は釈放の日の翌日右今井方を訪ね同人の右尽力に対し謝意を表したが、その際右税金の納入について格別不服を唱えていなかつたことが認められ、当裁判所はこの事実をも前記税額の納入並びに第二回審査請求の取下が控訴人の意志に基いたものであることの認定資料の一に加える。

当審における控訴人本人尋問の結果中この点の前示認定に牴触する部分は措信できないし、当審証人大室三郎、花井百亀、大森五郎の各証言も右認定を動すに足るものではない。

二、第三回更正決定の取消の請求に関して。

この点に関し控訴人は当審において、従前の原判決事実摘示(12)の主張事実を徹回し、第三回更正決定に対する第三回審査請求に対しては審査決定がない。たとえその決定があつたとしても公告がなされてない旨主張するけれども、右従前の主張は原審において被控訴人等より援用されたいわゆる先行自白と見るべきものであるところ、控訴人は右自白の撤回について被控訴人等の同意を得ておらないし、またそれが真実に反し、錯誤に基いてなされたものであることの立証も尽さないから、その撤回は許されないものというべきである。

三、被控訴人国に対する請求に関して。

この点について控訴人は国庫に対する控訴人の前示財産税等金三、五三八、五七二円九〇銭の納入はその後控訴人に対する財産税法違反被告事件が第一審で無罪となり、ついで控訴審で免訴と確定したことにより過誤納であることが明らかになつたから、控訴人は国税徴収法施行規則第三一条の五に則り当然その還付請求権を有する旨主張するので案ずるに、控訴人が原判決添付別表第五記載のとおりの課税価格の遺脱を公訴事実とする財産税法違反被告事件の被告として昭和二十四年一月二十七日福島地方裁判所郡山支部に起訴され、同裁判所で審理の結果同二十五年十月十七日犯罪の証明がないとして無罪の判決を受けたこと、更に検事の控訴により右被告事件は仙台高等裁判所に係属したが、昭和二十七年五月十七日大赦を理由に控訴人が同裁判所より免訴の判決を受け、それが確定したことは当事者間に争がない。しかしながら右事実によれば右被告事件については結局大赦による免訴が確定したにすぎないものであつて、財産税の過誤納を疑わしめる節はあるにしてもその過誤納の事実が確定したものとはいいえない(仮に右被告事件において右過誤納の事実が認められたとしても、それは控訴人の刑事責任の有無を判断する前提となるだけのもので、そのことから直ちに控訴人に税法上の過誤納にかかる税金の還付請求権が生じるものではない)から、右主張はその点で既に失当として採用できない。

四、他に以上の判断を左右するに足る証拠はない。

よつて原判決は相当であり、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 上野正秋 裁判官 兼築義春)

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